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2014/07/30

Flower Flower Flower





彼の名前はなんだったかな?

1人の人が、一生の内に少しでも関係を持つ人の数は、平均で3000人から5000人ほどらしい。

毎日、一緒に働いてたのに、すっかり忘れてしまった人や、

はたまた、たったの1日、数時間を共有しただけなのに、

色鮮やかに、とても印象に残っている人もいる。


歳を取る毎に、時々、とても、人と話すのが面倒になる時がある。

はじめまして、ごきげんよー、さようなら。


ある時、親しい人が、こんな事を言った。

出会った人の全てと、別かれたくない。と、

出来れば、それはきっと、素晴らしい事なんだろうと思う。








Ramsey Lewis - Spring High







メアリーはアメリカ人で、この那覇ミュージックのオーナーでボスだった。

きっと若い頃は美人だったんだろうな。

この写真を撮った時は私の方が背が高いのは嫌!

と言ってヒールを脱いで僕に背伸びをさせた。

そんなかわいい時もあれば、

仕事の時はイケイケで、時々、団体の客が暴れたりすると、

「キル ゼム オール (全員、ぶちころせ)」

とか言って、悪い顔をしてた。

そいで時々、ボス メアリーに会いに、ヤクザのおっちゃんが来たり、

警察の偉そうな奴が来たり、マリーンズの将校が嫁を連れて来てたりした。


でもゴキブリが苦手で、ブリちゃんが出現すると、

椅子をぶん投げて、外まで走って逃げていったな。





ボス・メアリーは日本語をまったく話さなかったし、覚える気も無いように思えた。

何故、こんな典型的なアメリカ人が、こんな辺鄙なところで、

こんなアホみたいな商売をする事になったのか、

僕はある時、英語の辞書とスクリーンプレイを片手に聞いてみた。





メアリーは学生時代、薬局でバイトをしながら、科学を勉強して、

エクスタシーの様なオリジナルの錠剤を練って、売ってたインテリ不良少女だったそうだ。

それで、お年頃の頃、名前は教えてくれなかったけど、モータウンのミュージシャンと結婚した。

結婚生活は数年続いて、離婚したんだけど、旦那が売れっ子だったんで、慰謝料がタンマリ貰えたそうだ。





手に余る程の金があったメアリーは、フラりと旅行に出かけ、数カ国目で沖縄に滞在した。

そしてそこで、怪しい日本人の男と知り合った。


日本男児には全国のストリップ劇場とコネクションがあって、

メアリーには金があったので、こりゃチャンス!と思い、ビジネスを始める事になった。

メアリーは、その日本男児と2度目の結婚をした。


商売は男に任せ、メアリーは一時帰国した。

しかし、数ヶ月経っても、1年経っても約束の売り上げ金は口座に振り込まれなかった。

おー、ビック・ミステイク、と気が付いたメアリーが沖縄に戻ると、

旦那は仕事もせず、1千万程の有り金の殆どを酒に変えて飲みまくり、体を壊して入院していた。

呆れたボス・メアリーは、無くした金を取り戻すべく、仕方なく沖縄に移住した。

満足する金を回収するには、10年近くかかるって言ってた。


メアリーは時々、ボーナスや、大入り手当てを配りながら僕らに

「キープ イン タッチ (ぜってー使うな)」 と、言った。

当然、若くて貧乏な僕らは、すぐに金を使ってしまうんだけど、

今でも、大きな金を使う時には、メアリーの 「キーピン・タッチ」 の声が聞こえるんだ。





この人は、耳の聞こえない おっちゃん だった。だから名前は知らない。

うまく説明できないんだけど、常連客のおっさんなんてのは、

殆どが、クソでクズで、ゲスで、ゲロみたいな人間なんだけど、

このおっちゃんだけは、なんだか、妖精みたいな雰囲気があって、

いつも眠たそうで、寂しそうで、本当に上手く言えないんだけど、

僕はこのおっちゃんが好きだったな。





フロイドさんは従業員のアメリカ人のじいさんだった。

気さくで、ファンキーで、白人としては普通なのかもしれないけど、変態だった。

「東南アジアの女が一番エロいわー」

とか言って、僕が聞いてもいないのに、時々、世界の女の事を話て聞かされた。


僕は営業中、客ウケがいいので、店ではDJ気取りでギャングスタ・ヒップホップをよくかけていた。

そして、何度かフロイドさんに「うるせーいいかげんにしろや!」 と怒られた。


「いいか、よく聞け、ギャングスタラップの歌詞の内容は、

セックスとバイオレンス、ドラッグ、そんなのばかりだ

アメリカでは、こんな曲を聴いて、若者が更に暴力を起こすんだ。」


うーん、僕は、面倒なじーさんだなと思いながら、

それじゃあと、美メロで、スローなヒップホップを流したら、

「警察を殺せ!隣町のギャングをボコれ!女をレイプしろ!って歌ってるぞ!おい止めろ!」

と、また怒られてウンザリしたんだけど、今は彼が言っていた事が正しいと分かる。





しかし、ある時、フロイドさんが僕のトコに寄ってきて、

「これ、めっちゃイイ曲だな、誰の曲?」 って聞くから、

「ライオネルリッチーやで。」 って教えてやったら、

「マジか?あのニガーのか?・・・そうかー。」 とショックを受けていた。

そー、フロイドさんはWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)で、

ただ単に、黒人が嫌いだっただけなんだよ。





那覇ミュージックの日当は5千円だったけど、半分遊んでるような仕事だった。

営業中に店の入り口で、床屋ごっこしてても、まったく怒られなかった。





市村茂平さんは群馬出身のおっさんで、名義人で店長で、

ボス・メアリーの旦那と酒を飲みまくってた人だから、

この頃はもう、糖尿病の末期で、目は黄色く濁り、糞尿はすぐ垂れるし、時々、吐血もしてた。

「病院行った方がいいんじゃないっすか?」 ってアホな事言ったら、

「俺は、医者と警察は大嫌いなんだ。」 と返された。


ある時、悪酔いした客の首を絞めていたら、市村さんが珍しく出てきて仲裁に入り、

「まぁまぁ、お客さん、落ち着いてー」 なんて優しく言った。

したら、アホな客が 「なんだー、このやろー警察呼ぶぞー」 なんて言ったもんだから、

さぁ大変、市村さんの顔が大魔神みたいに変わって、客をボコボコ蹴りながら

「今すぐ呼んで来いこのやろー」 とシャウトしてた。

いつも、ウンコ臭かったけど、かっこいい人だったな。




池田大作


僕は無神論者で、誰かの作った宗教を信じるほど、素直な性格ではない。

だからと言って、新興宗教や、あらゆる宗教を信仰する人を否定もしない。

何故なら、宗教を信じる末端の人々は、心配になる程のお人好しばかりだからね。





失恋して失踪したジェフが姿を現した後、店の前でドゥルーピー達とジェフの噂話をしていた。

「あいつ、ブッディストになったらしーよ、創価学会ってゆーさ、」

すると、その日も、調子が良かったみたいで、市村さんが出てきて 「えっ?」 と言い、


「俺もだ!創価学会はナンバーワンだ!」 とふんぞり返った。


たまげた顔した僕らに気が付いて、市村さんは、少し下を向いて、

「まぁ、宗教がどーとか、教えがどーなんて話はわかんねーけどさ、

こんな俺でも迎え入れてくれたんだ、創価学会は大したもんだよ。」

と、言って事務所に引き返して行った。

確かにそーかもしれないね。





ある時、市村さんが言った。

「実は何度か病院に行ったことがあるんだ、でも、医者はみんな偉そうにしやがるだろ?

その度に、ケンカになっちゃうんだ、いつも、何度も、怒りで我を忘れるんだ、自分が嫌になるよ。」

そう言った市村さんは、医者の顔を思い出したのか、空を睨み、

その日も、仕事の終わったあと、酒を飲みに出かけていった。


市村さんの酒を飲む時の乾杯の声は、八重山スタイルで、

決まって、とびきりの笑顔で 「はなはなはな!」 だったな。



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