Nine Inch Nails - The Perfect Drug
この人は、人体改造の趣味があるみたいで、どーしても指を切りたくなって、
薬指を紐で結んで1ヶ月放置して、壊死させて、病院行って切り取ってもらったそーだ。
その衝動と、情熱、素晴らしきこと、天災の如し。
僕が十代の頃に働いていたガソリンスタンドには勤続19年なのに平社員の カミムラ タケシ というおっさんがいた。
愛車はピカピカのトヨタの スターレット KP で朱色のやつだった。
マニュアルのシフトをチャンジする時、ギアを入れる前に左右にクリクリする癖があって、気持ち悪りーんだ。
カミちゃんはスキンヘッドにギョロっとした目で、ウミガメみたいな顔で、当然、嫁も彼女もいなくて、バカだった。
ほいで、「筋トレが趣味で、柔道2段です!」 と、新人のバイトが入る度に自己紹介していたけど、
20歳そこそこくらいの歳の元気なバイトに、ジャイアントスイングで振り回されて、
しょっちゅうガソリンスタンドの硬いコンクリートに放り投げられて、遊ばれていた。
タケシは給油した客を、オーライ!オーライ!と言って誘導しながら車道に飛び出して、
車に轢かれた事が2回。タケシのオーライ!を信じて出た瞬間に衝突事故を起こした客、僕が知るだけで1人。
「尿道にマッチ棒を出し入れしてオナニーすると、超気持ちいーんだぞ。
なんだ、知らないのか? 林はまだまだ子供だな。がははははは。」
44歳くらいだったカミちゃんは時々、そんな類の発言をした。僕は実際まだ子供だったから、
大人のオナニーがどんなもんかは、想像する気にもならなかったんだけど、
お気に入りのキャバ嬢の家を探しだして、ストーキングしてたり、
愛車のKPには無線機が搭載されてて、夜な夜な盗聴パトロールをしてるよーだったし、
こいつがシャバでのうのうと暮していていいもんか?と思うほど、カミちゃんはまともじゃなかった。
それでも僕らは仕事が終わったあと、コンビニで酒を買って、ガソリンスタンドの小汚い事務所で仲良く飲み明かした。
普段はバイトの子供たちに舐められないように、全力でかっこつけてるので、つまらないヤツなんだけど、
酒を飲んだカミちゃんはとても陽気でファンキーになった。
その日も、いつもの様に大騒ぎしながら、気が付けば時計は丑三つ時。
話す元気も無くなってきたころに、棚の上のだるまが僕の目にとまった。
直径60cmくらいのでかいヤツで、勿論、正月に買って片目だけ黒い状態で、
いつも、辛気臭い顔をしてるから、目障りなのであった。それでカミちゃんに言ってやった訳だ。
「おい、カミちゃん、あそこのだるまが、さっきからカミちゃんにガン飛ばしてるよ!」
「ヤバいよ、いやいや、だるまはヤバいよ。」
「でも、ほら、めちゃめちゃガン飛ばしてるよ。いいの?」
「・・・舐めやがって。この、だるまヤロー!」
そー言って、カミちゃんはでかいだるまをボコボコに殴って破壊した。
そこにいた全員が大爆笑だった。
次の日、カミちゃんは所長に呼ばれて、こってり絞ぼられていたな。
カミちゃんは今でも、三鷹の東八道路と人見街道の交差点のガソリンスタンドで働いているみたいだ。
僕は大人になったけど、それほど個性的なオナニーの方法を見つけられていない。
でも時々、夜中に、KPでパトロールしてるカミちゃんとすれ違う事があるんだけど、少しだけ官能的な気分になるんだよね。