彼女は名前をカナコと名乗った。
友達の少ない僕は彼女に興味津々で何度か話しかけた事があるが
いつもお互いに一方的に言葉を発するだけで、
会話が出来た1度しかない。
大抵の場合、彼女はゴーストは圏外である。
Buffy Sainte Marie – Helpless
おじさんのように見えるがレディーである。
アンパンマンにも似ているが困っている人がいても助けはしない。
2014年ころから2020年あたりまで渋谷のストリートで
ファッションリーダーを務めていた。
アンティークショップJoJoのショーウィンドウを鏡にして歯磨きをする
うがいは缶酎ハイが円山町スタイル
クリスマスの朝にこんなにもトレンディーで絵になるサンタは他にいない。
ハロウィンはこんな感じだった。
センター街で撮影されたインディーのMVや
わちゃわちゃしたYouTubeにも何作か出演している。
渋谷では有名なインフルエンサーだった。
カナコの仕事は渋谷の街をファッションウォークして人々を魅了する事が主であり、
その合間にアルコール飲料の空き缶に残った酒を注ぎ足して
オリジナルカクテルを作る事が趣味である。
ファッションの極意とは身の丈にあった服を選ぶ事であるそうだ。
どんなに素敵な服でも似合わなければナンセンスなのだ。
如何にもお洒落を気取ったような服は頑張っている感じがしてダサい。
何気なく、さらっとした着こなしなのにカナコのこの存在感
スタイリッシュとはそう言う事なのだ。
VUENOS TOKYOで不定期で開催されていたノイズ系のイベント
カナコがオーガナイズするルンペンナイトは人気のイベントであった。
カナコはファッションリーダーとしてメイクにも造詣が深かった。
以前は銀座のヘアーサロンに通っていたのだと誇らしそうに
そして嬉しそうに千鳥足で言った。
新しいアレンジのメイクがバッチリ決まると、
同業者の僕に時々報告に来てくれた。
缶酎ハイとマルボロを左手に
ピースサインと思いきや観音サインである。
徳が高い。
この日は左手のハードリカーのせいか
いつもよりもアバンギャルドですね。
その昔、望月峯太郎さんのトラゴンヘッドで
地震の為にトンネルの中で生き埋めになったノブオ君が
狂気的なメイクを自らにするシーンがあって、
そんなこと、あるもんか×
とまだ若かった僕は思ったものだ。
写真は無いが、百軒店の入り口でケバブ屋の流す音楽に乗って
カナコがおっぱいを両方だしてノリノリで踊っているのも見た事がある。
僕がカナコに気がある事を職場では周知されていて、
聞いてもいないのに時々カナコの目撃情報が僕に伝わって来る。
職場でもっとも色男の江頭くんは渋谷平成女学院のある小道でカナコと遭遇し、
「あーら、いい男ねー!げははははは!!」
と言って笑いながら抱き着いて来られて全力で走って逃げたそうだ。
触れられたら病気になると思ったらしい。
カナコは僕には全く興味を示さない。
かつては若いカナコを本気で愛する男がいて、
カナコと男の奏でる燃える様な本気の恋のメロディーが
ザギンの街に流れていた事だろう。
そんなカナコは2020年頃に渋谷から姿を消したそうだ
どこかの施設に入ったのか、死んだのかは分からない。
当時、週6日、1日12時間以上もつまらない仕事をして過ごしていた僕は
朝から1日中酒を飲み、眠たい時にそこで寝るカナコに
憧れに近い感情を持っていたのだと思う。
カナコの目に僕はモブの様に映っていなかっただろうけど、
もしまたどこかの汚い街角ですれ違うことがあったなら、
その時はきっと缶酎ハイを奢るよ。
Have a Merry Xmas